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解 説 開業資金は、「設備資金(イニシャルコスト)」と「運転資金(ランニングコスト)」の2つに分けられます。 1.設備資金 「設備資金」とは、建物や医療機器などのハード面を中心に、主に開業までにかかる予算を指します。また、「設備資金」は、さらに次の3区分に分けられます。 ●建設設備資金 診療所建物またはテナントの内装費、不動産賃貸契約に係る保証金・前家賃・礼金等。 ●機器類資金 医療機器、レセコンまたは電子カルテ、机、イス、診療台等の什器備品、コピー機、電話機、FAXなどの事務用機器に係る資金 ●その他の資金 広告費(チラシ、HP作成費、電柱広告、駅看板、野立看板、印刷物)や医師会入会金等 2.運転資金 「運転資金」は、当面のテナント家賃や人件費、リース料や水道光熱費、福利厚生費や交際費などの開業後にかかる費用をまかなうための予算です。 社保・国保・後期高齢者医療ともに診療報酬が支払基金から入金されるのは、請求してから2か月後となります。そのため、開業後2か月の収入は健診や予防接種等の自費を除けば、窓口収入(患者本人負担分)のみとなります。 さらに、開業月の診療報酬は2か月後の月末近くの入金(例えば、4月分の診療報酬は5月の月初に請求し、6月末頃に入金されます)となりますので、最初の入金があったときには、実質3か月分の支出は既に手元資金から無くなっていることになります。従って、最低限の運転資金として3か月分が必要となります。 ●最低限の運転資金 薬剤費、人件費、家賃、リース料、その他諸経費、借入金返済額、生活費 × 3か月 では、運転資金が最低3か月以上必要だとして、何か月分以上準備しておけば安全といえるでしょうか。 確かに、事業計画上、「運転資金」は「月々にかかる固定費」×「月数」という表現が使われますが、収入が低い時期にも「お金がない」状態にしないための予算ですから、実際には「黒字化するまでの赤字の合計」こそが、真に必要な金額であると言えます。 ●実際に必要な運転資金 黒字化するまでの(生活費を含む)赤字の合計 下表のケースでいえば、初年度と2年度の赤字合計16,800千円が運転資金として必要な金額となります。当初の事業計画段階で3か月分の支出である9,100千円((医業経費22,000千円+借入金返済2,400千円+生活費12,000千円)×3/12)と見積もっていた場合、黒字化する前に資金不足に陥ってしまいます。 下表では分かり易く単純な例を示しましたが、実際の事業計画では、年毎ではなく月毎の収支計画表により合計額を計算します。 <収支計画表の例> (単位:千円)
※患者1人5,000円、1か月20日間の診療を行った場合の計算 事業計画において「運転資金」を甘く見積もり、借入金額を設定し間違えてしまうことがあります。開業後に慌てて追加融資を手当てしたり、生活資金からの持ち出しにならないように、税理士等の開業コンサルタントにご相談ください。 |